事件番号:JP2024-0006

裁定

申立人:
(名称)株式会社NTTドコモ
(住所)東京都千代田区 ●(省略)●
代理人:
弁理士 網野友康
弁理士 網野誠彦
登録者:
(氏名)川上城三郎
(住所)愛知県名古屋市 ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)および日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文

ドメイン名「DOCOMO2.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名

紛争に係るドメイン名(以下、「本件ドメイン名」という。)は「DOCOMO2.JP」である。

3 手続の経緯

別記のとおりである。

4 背景となる事実

申立人は、移動体通信業者であり、携帯電話サービス契約数は2022年度時点で約8749万件であり、そのシェアは43.1%となっており(甲第8号証)、また、ドコモグループとしての2022年度の営業収益は約6兆590億円となっている(甲第9号証)。

申立人は、親会社である日本電信電話株式会社(以下、「NTT」という。)が所有する「DOCOMO」の文字からなる登録第5213789号(甲第2号証、以下、「本件登録商標」という。)の専用使用権者である(甲第3号証)。さらに、申立人は「DOCOMO(docomo)」の文字列を含む登録商標を多数保有している(甲第6号証)。

本件ドメイン名「DOCOMO2.JP」は、2007年12月から2010年4月30日まで申立人が所有しており(甲第12号証)、申立人は2007年4月23日から「DoCoMo2.0」をキャッチフレーズとしたプロモーションを展開し、「DOCOMO2.JP」を「DoCoMo2.0」の特設サイトのドメインとして、遅くとも2007年4月25日から2007年11月1日まで使用していた(甲第13号証、甲第14号証)

本件ドメイン名は、2023年2月6日に登録された。

5 当事者の主張

a 申立人

申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」について

申立人は、日本最大手の移動体通信業者であり、親会社であるNTTが所有する「DOCOMO」の文字からなる登録商標(甲第2号証)の専用使用権者である(甲第3号証)。さらに、申立人は「DOCOMO(docomo)」の文字列を含む登録商標を多数保有している(甲第6号証)。また、申立人の名称の英語表記は、「NTT DOCOMO, INC.」であり(甲第5号証)、「DOCOMO」の表示が申立人を識別する主要な表示である。したがって、申立人は本件登録商標および「DOCOMO」の表示について権利および正当な利益を有している。

本件ドメイン名「DOCOMO2.JP」中、「.JP」および「2」は、識別力が弱いものであることから、識別力を強く発揮するのは本件ドメイン名でいうところの「DOCOMO」部分である。

さらに本件登録商標は申立人を表す表示として著名なものであることからも、本件ドメイン名の構成中、識別力を発揮する要部となるのは「DOCOMO」部分であり、この部分は本件登録商標および申立人を表す主要な表示である「DOCOMO」と同一である。

以上のとおりであるから、本件ドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似していることは明らかである。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと

登録者の詳細情報は不明であるが、NTTや申立人が把握していない第三者に本件登録商標に係る商標の使用を許諾することはなく、サービスブランドとしての「DOCOMO」の著名性も考慮すると、登録者の氏名・法人名と本件ドメイン名が一致する可能性は極めて低い。仮に登録者の法人名と本件ドメイン名が一致したとしても、NTTや申立人の許諾を得ていない使用である可能性が極めて高く、その使用は商標権侵害あるいは不正競争防止法2条1項1号および2号違反に該当する可能性も高い。

本件ドメイン名上で公開されるウェブサイトの運営者とされている「隆盛(たかもり)」が登録者であると仮定したとしても、登録者と本件ドメイン名は一致しない。

申立人の調べる限り、日本における「DOCOMO」の文字列を含む商標については、NTTおよび申立人を権利者とする登録商標しか存在しないことから(甲第6号証)、登録者が本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実はない。

NTTおよび申立人は、NTTおよび申立人の把握していない第三者に登録商標に係る商標の使用やドメイン名の登録および使用を許諾することはなく、本件ドメイン名の使用に関してライセンスをした事実も存在しない。

なお、申立人以外が本件ドメイン名の名称で一般に認識されている事実は確認できず、また、本件ドメイン名の使用状況を考慮すると、登録者は商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとはいえず、本件ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているともいえない。

以上のとおりであることから、登録者は本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

申立人は、日本最大手の移動体通信事業者であり、1992年より現在に至るまで30年以上、商号やコーポレートブランドロゴに一貫して「DOCOMO」または「DoCoMo」「docomo」「ドコモ」の表示を使用している。

申立人の携帯電話サービス契約数、シェア、営業収益等(甲第8号証ないし甲第11号証)により、申立人の名称および申立人のサービスブランドとしての「DOCOMO」が、本件ドメイン名の登録時に非常に高い著名性を有していることや、その著名性が現在においても維持されていることは十分に理解できる。

「DOCOMO2.JP」は、2007年12月から2010年4月30日まで申立人が所有しており(甲第12号証)、申立人は2007年4月23日から「DoCoMo2.0」をキャッチフレーズとしたプロモーションを展開し、「DOCOMO2.JP」を「DoCoMo2.0」の特設サイトのドメインとして、遅くとも2007年4月25日から2007年11月1日まで使用していた(甲第13号証、甲第14号証)。

本申立に係る本件ドメイン名の登録日は2023年2月6日であり(甲第1号証)、遅くとも2023年9月12日には、甲第15号証に示すとおりのウェブサイト「フリーランスの道しるべ」(以下、「本件ウェブサイト」という。)を表示するためのドメイン名として使用が開始されたことが伺える。

現在、本件ウェブサイトでは、甲第16号証の1(トップページ)および甲第16号証の2(記事の1つのページ)に示すように、フリーランス向けとして様々な情報を提供しており、利益を得るアフィリエイト広告は表示されていないため、表面上は一見すると特に本件ウェブサイトで利益を得ているようには見えない。

しかし、本件ウェブサイト上で公開されている「プライバシーポリシー」の「広告配信」の項では、「Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。」という表示をしており、収入を得ていることがわかる。(甲第16号証の3)

加えて、本件ウェブサイトは、アフィリエイト広告により広告収入を得られる状態にあることが確認できるため、登録者に本件ドメイン名を使用し本件ウェブサイトを運営することで収益を得る商業上の目的があるということは十分に推認できる。

そして、申立人の著名性および本件ウェブサイトで提供されている情報が申立人の業務や競合他社の業務に関係する情報が多く含まれていることから、ウェブサイトの運営者が本件登録商標の存在を知らずに本件ドメイン名を使用しているとは考えられない。

このような状況において、本件ドメイン名を使用して、本件ウェブサイトを運営することは、「DOCOMO」ブランドの著名性にフリーライドし、本件ウェブサイトがあたかも申立人と取引提携関係、推奨関係などを有するものであるとの誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを本件ウェブサイトに誘引しようとしていることを強く推認できる行為である。

さらに、本件ウェブサイトのコピーライト表示「©2023フリーランスの道しるべ」ならびに「DoCoMo2.0世代の挑戦 All Rights Reserved.」と記載し(甲第16号証)、あたかも申立人と何らかの関係があるかの如く誤認混同を生ぜしめている。

なお、コピーライト表示している「フリーランスの道しるべ」なる組織や、運営者として記載されている「隆盛(たかもり)」(甲第16号証の3)は、NTTや申立人とは無関係の組織および個人名であり、この組織が本件ドメイン名を使用することについての合理的な理由は一切存在しない。

以上のとおりであるから、本件ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることは明らかである。

よって、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の目的で登録または使用されている。

したがって、申立人は、本件ドメイン名の登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者

登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定

a 適用すべき判断基準

手続規則15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」

処理方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。

  1. 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
  2. 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
  3. 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

b 紛争処理パネルの判断

(1)同一または混同を引き起こすほどの類似性

登録者のドメイン名は、「DOCOMO2.JP」である。本件ドメイン名において「.JP」は日本を意味するトップレベルドメインであって類否判断には影響しない部分である。また、「DOCOMO2」の部分において、「2」の文字は、単なる数字にすぎず、特別の意味合いを生じないものである。

そうとすると、本件ドメイン名の要部は「DOCOMO」の部分と考えるのが相当であって、本件ドメイン名は、申立人が専用使用権を有し、申立人のサービスを表す商標として著名な本件登録商標「DOCOMO」と商標等表示の構成、すなわち、文字、番号、記号等構成に即して混同を引き起こすほど類似していると判断する。

(2)権利または正当な利益

本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、登録者は権利または正当な利益の存在について何ら実質的な主張を行っていない。

ここで、申立人の主張および提出された証拠によれば、日本における「DOCOMO」の文字列を含む商標については、NTTおよび申立人を権利者とする登録商標しか存在しないことから(甲第6号証)、登録者が本件ドメイン名と一致する日本の登録商標を保有している事実はないことが認められる。また、NTTおよび申立人は、NTTおよび申立人の把握していない第三者に登録商標に係る商標の使用やドメイン名の登録および使用を許諾することはなく、本件ドメイン名の使用に関してライセンスをした事実も存在しない。

そして、登録者が実質的な反論を行わないところにおいて、申立人が専用使用権者である本件登録商標の著名性に鑑みれば、「本件ドメイン名の名称で⼀般に認識されていた(処理方針4条c(ii))」とは認めがたい。また、申立人が主張し、登録者が何らの主張も行っていない本件ドメイン名の使用状況を考慮すると(甲第15号証ないし甲第17号証)、既に実際にウェブサイトから収益を得られているかどうかは定かではないとするも、少なくとも広告収入を得られる状態にあることが確認できるため、登録者に本件ドメイン名を使用し本件ウェブサイトを運営することで収益を得る商業上の目的があるということが推認できる。さらに、「DOCOMO」の文字列を含み、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と混同を引き起こすほど類似する本件ドメイン名を使用して、本件ウェブサイトを運営することは、「DOCOMO」ブランドの著名性にフリーライドし、本件ウェブサイトがあたかも申立人と取引提携関係、推奨関係などを有するものであるとの誤認混同を生ぜしめることを意図してインターネット上のユーザーを本件ウェブサイトに誘引しようとしていることを強く推認できる行為であり、「登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用している(処理方針4条c(ⅲ))」とは認められない。

また、申立人の主張により、本件ドメイン名の登録時に「DOCOMO」が申立人のサービスを表すものとして著名であったと認められるが、登録者が何ら主張していないところにおいて申立人が主張し証拠を提出する登録者の使用態様(甲第16号証の3および甲第17号証)によれば、登録者が、「商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、本件ドメイン名またはこれに対応する名称を使用しているとも認められず、または明らかにその使用の準備をしていた(処理方針4条c(i))」ことも認められない。また、NTTおよび申立人は、登録者に登録商標に係る商標の使用やドメインの登録および使用を許諾しておらず、本件ドメイン名の使用に関してライセンスをした事実も存在しないことは申立人の主張により明らかである。

したがって、登録者には、本件ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しているという事情は認められない。

(3)不正の目的での登録または使用

申立人による30年以上にわたる「DOCOMO」または「DoCoMo」「docomo」「ドコモ」の表示の使用期間、および、申立人の携帯電話の契約数とシェア、その営業収益、さらに本件ドメイン名と同一ドメイン名の使用実績を考慮すると、本件ドメイン名の登録日である2023年2月6日において本件ドメイン名の要部と認められる「DOCOMO」が申立人を表示するものとして非常に高い著名性を有していることは明白である。

一方、本件ドメイン名が使用されている本件ウェブサイトで公開されている「プライバシーポリシー」(https://docomo2.jp/privacy-policy/)の「広告配信」の項では、「Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。」という表示をしており、収入を得ていることがわかる(甲第16号証の3)。

加えて、申立人の主張および提出する証拠(甲第17号証)により、本件ウェブサイトが広告収入を得られるアフィリエイトとして稼働できる状態になっていることも認められる。

その他登録者が実質的な反論を行わないところにおいて申立人の主張および提出された証拠によれば、その主張に沿った事実が認められるのであり、「登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用している」(処理方針4条bⅳ)ことが推認され、登録者は当該ドメイン名を不正の目的で登録したものと認定せざるを得ない。

7 結論

以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「DOCOMO2.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されているものと判断する。

よって、処理方針4条iに従って、ドメイン名「DOCOMO2.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

2024年7月3日
 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
        単独パネリスト 本多 敬子

別記 手続の経緯

(1)申立書の受領

日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2024年4月30日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。

(2)申立手数料の受領

 センターは、2024年4月30日に申立人より申立手数料を受領した。

(3)ドメイン名及び登録者の確認

センターは、2024年4月30日にJPRSに登録情報を照会し、2024年4月30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であることを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等を受領した。

(4)適式性

センターは、2024年5月5日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認した。

(5)手続開始

  センターは、2024年5月9日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、手続開始を通知した。センターは、2024年5月9日に登録者に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手続開始日(2024年5月9日)、答弁書提出期限(2024年6月6日)並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に送付した通知は「あて所に尋ねあたりません」として返送された。

(6)答弁書の提出

 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2024年6月7日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信により申立人及び登録者に送付した。

(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知

 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2024年6月13日に弁理士 本多 敬子を単独パネリストとして指名し、一件書類を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2024年6月13日に申立人、登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定予定日(2024年7月3日)を通知した。パネルは、2024年6月14日に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。

(8)パネルによる審理・裁定

 パネルは、2024年7月3日に審理を終了し、裁定を行った。